特集 兼六「縁」

特集 兼六「縁」

建築物の背景

前田家歴代藩主が愛でた庭園を再現

かつて金沢城内に大規模な庭園が造営され休憩所となる建築物が建設されていた玉泉院丸は、戦争の影響などもあり明治以降その面影は失われていた。昭和40年には石川県体育館が竣工され県民に利用されていたが、平成20年に移設されることが決定。それを機に庭園再生プロジェクトが始動し、平成25年5月から園内の整備工事が開始された。その中にあって当社は庭園を望む絶好のポジションとなる玉泉庵の建築を担当することとなった。着手は平成25年7月。平成27年3月14日に北陸新幹線開業を控えいわば観光誘致の一つの目玉となる事業だけに、現場を指揮した池田茂所長はじめ社をあげての力の入った施工となった。

構造の特長

目で確かめ、庭園のベストな景観を設計

最初に行なわれたのは景観の確認であった。庭園を愛でるのが狙いの建物なので、畳の高さや鴨居、柱の位置など微妙なさじ加減で視界に収まる庭園の表情が変わってくる。当然のことながら一度建設してしまえば後で建物の位置をずらしたり高さを変えることはできない。そのためまずは図面に則して仮組みを作り、実際に座った際にどういった風に見えるのか景観を確かめることからスタートしたのだった。確認には県の関係者や造園関係の人が訪れ、畳や鴨居の高さや柱の位置などを実際に目で確かめながら微調整していった。


景観を確かめる仮組みを制作

実際に座って庭園の眺めを確認

手間暇を掛け、柿葺(こけらぶき)屋根を完成

屋根の工法にも大きな特徴がある。柿(こけら)と呼ばれる薄い板を重ねて敷き詰めていく、昔ながらの「柿葺(こけらぶき)」が採用されることとなった。一日にできあがる面積が畳一畳分ほどと手間暇が掛かるもので、毎日5〜6人の職人が作業をしてすべて敷き詰めるまでに約3ヵ月間もの時間を要した。柿(こけら)の間には、これも昔の工法を再現する形で銅板を挟み込むこととした。雨水と銅が化学反応を起こし、流れ出る緑青(ろくしょう)が木の板の上に薄い膜を張ることで防水効果を発揮。雨水の浸透を防ぐのである。


柿(こけら)を1枚1枚敷き詰めていく職人

木、石、畳と、建材は県内産にこだわった

県が作る建物ということもあり、建材は県内産のものを基本的に使うこととなった。中でも木材は苦労した材料であった。能登ヒバを使用することとなったが、これは産地である輪島市鳳至郡では「アテ」と呼ばれている。「アテにならない」から来ている通称で、完全に乾燥するまでに変形してしまうのがネックであった。そこで変形を見越して加工を行ない、組み込んだ後にできた隙間を再調整することで対処をした。他にも城内の石垣整備の際に取れた戸室石を使ったり、畳には小松い草を使用するなど県内の材料を結集した建築物となっている。


城内の戸室石を使用した床面

県内の材料にこだわった縁側

建物を取り囲んだ全天候性型の仮設を設営

いざ竣工が開始された際には、全天候性型に対処できるよう側面だけでなく天井部分も含めてぐるりと囲んだ仮設工事を行なった。設置場所は丘の上に位置しているため、南町からの冷たい風が吹き付けてくる。その風雨から保護する目的が一点と、お披露目までは文字通りベールをかぶせて見せなくしようという狙いがあったのだ。また建物の真裏では造園の作業が行なわれているため、屋根の雪が落ちないようにと片流れ屋根を採用することとした。融雪装置と水はけのための雨樋も設置し、約15ヶ月間に渡る建設期間を乗り切った。


建設前に建物全体をすっぽり覆う仮設を制作

景観を考慮して、ガラス戸の枠も創意工夫

休憩所のガラス引き戸も苦心した部分である。風を避けるためにガラス戸の設置は決まっていたが、休憩所からの庭園の景観を損ねないよう戸の中央の枠をできる限り薄くして欲しいというリクエストが入ったのだ。引き戸に使うガラスは一枚132キロもの重量がある。それを支えるためには、四方を囲む枠もある程度の幅と強度が絶対に必要だ。薄くしてしまってはガラスの荷重に耐え切れなくなってしまうだろう。色々な方法が検討されたが、木枠ではなく強度の高いステンレス製の加工物を特注して取り付けることで解決することとなった。


休憩所のガラス戸

特注のステンレス製の枠

施工者インタビュー

「二度とできない」、それだけの思いで取り組んだ

兼六建設という社名ながら、これまで兼六園に関わる建設の機会が当社にはありませんでした。それが今回、初めて携われるということで会社全体の気運が高まる中、私自身「これだけのものに携われるのは二度とないかもしれない」という思いで、一つひとつの作業を全力で行なってきました。実は、屋根裏に谷本知事や現場でがんばってくれた棟梁、そして私の名前などを記した一枚の板を置かせていただきました。今後、何十年とこの建物が存続していくならば、それを自分たちが作ったという証を残したかった。この建築物は我々にとって誇りでありますし大きな喜びでもあるのです。

現場所長
池田 茂

昭和51年4月 兼六建設㈱入社

【資格】
1級建築士、1級建築施工管理技士

【主な現場】
松任市庁舎等新築工事、石川県立看護大学(仮称)建設工事(建築・図書館)、常盤園改築工事(建築工事)、金沢大学医学系研究科(保健学)校舎新営工事、ブランドオフ本社社屋新築工事、金沢城公園整備(玉泉院丸休憩所棟)工事(建築)

東京営業所副所長 東京営業所において営業及びマンション建設に従事。

現在は本社勤務。

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