特集 兼六「縁」

近江町ふれあい館

建築物の背景

近江町市場に直結した交流を生み出す複合商業施設る

300年以上の歴史があり、金沢市民の台所として親しまれる近江町市場。1970年代に建てられた「近江町市場駐車場」及び「近江町市場名店街」の老朽化にともなう再開発事業が行われ、2020年に誕生したのが「近江町ふれあい館」である。市場のアーケードに直結する1階は商業店舗とイートインスペースがあり、2階から5階は立体駐車場という複合型施設で、交流拠点となるキッチンスタジオも設けられた。施工はコロナ禍前の2018年にスタートし、観光客が行き交う金沢中心部での工事となったため、第三者災害の防止が徹底された。現在、周辺観光の拠点となり、大胆にルーバーをあしらったモダンな建物は町のランドマークになりつつある。

構造の特長

金沢らしくてモダン。ルーバーの縦格子が目印

建物の最大の特長は、金沢らしさとモダンさが融合した外観にある。百万石通りの市媛神社側から眺めると、正面のルーバーが町家の縦格子を思わせ、金沢らしさが漂う。上層の立体駐車場は建築基準法の斜線制限をクリアするため、フロアを階段状に積み重ねたモダンな形をしており、圧迫感を和らげている。駐車場の外壁はコンクリート打ち放しで仕上げられているが、継ぎ目の美しさなど、打ち放しだからこそごまかしがきかず、技術力が必要。兼六建設の技術力が細部に生かされた建物と言える。


押出成形セメント版で造られたルーバー

違和感のないアプローチ

施工担当者たちが、「難易度の高い物件だった」と口を揃える背景には、市場の高低差がある。江戸時代、近江町市場がある場所に惣構(そうがまえ:城下町を囲む外郭)があった名残から、ふれあい館の前面道路でも最大2.2mもの高低差があり、それに沿って店舗や倉庫が軒を連ねている。勾配がある敷地での建築はこれまでも実績があるが、店舗ごとに細かく高さ調整が必要な物件は例がなかった。設計士から出された図面をチェックし、現場の状況とすりあわせながら、それぞれの店舗に勾配を感じさせずアプローチできるよう調整していった。


歩行に支障が出ない自然な勾配

施工現場は「観光地」、徹底して第三者災害を防ぐ

ふれあい館が建てられたのは、金沢屈指の観光名所・近江町市場の一角。建物は人々が行き来するアーケードに違和感なく直結し、自然と足を踏み入れている人も多いだろう。施工が始まった2018年はまだコロナ禍前とあって、観光客の往来が多く、工事では第三者災害を防ぐ細心の注意が払われた。建物全体を3mの鋼板で仮囲いをし、アーケード側は防音シートを設置。すぐ近くに飲食店があるため、防臭対策も行った。解体工事ではアスベストが外に飛散しないよう密閉状態をつくり、養生シートに不具合がないか毎日、徹底してチェックを行った。


市場アーケードに自然とつながる

相乗効果でプラスアルファの施工

設計を担当したのは長年、金沢の都市開発に参画してきた株式会社アール・アイ・エーで、市街地整備を得意とする心強いパートナーと言える。兼六建設では図面をもとに現場目線での提案を行い、居心地がよく、デザイン性の高い建物へと仕上げていった。例えば、イートインスペースの天井は設計と施工が意見を交わすことで生まれたデザインで、少し段差を設け、木調にすることで空間の解放感を演出した。立体駐車場の案内表示などに使うカラーは、株式会社アール・アイ・エーのリクエストで加賀友禅の伝統色「加賀五彩」を採用し、設計士のイメージに合わせた施工を行った。


「加賀五彩」を用いた案内表示

折り上げ天井になったイートイン

施工者インタビュー

市街地での施工は安全第一と時間管理が大事

人通りが多い市場内での施工だったので、今までにない苦労がありました。まず安全第一を徹底し、警備など細心の注意を払いました。観光地での工事は時間の制約もあり、アーケード側からの搬出入は夜間にしかできませんし、1日2回、現場近くにゴミ収集車がくる時間帯は作業がストップします。市場内は勾配があるため、店舗ごとの段差の調整にも時間がかかりました。私自身スロープがある立体駐車場の施工は初めてだったので、これまでにない経験を積み重ね、完成した時は喜びも大きかったです。館内にはイベントができるキッチンスタジオもあるので、憩いの場としてふれあい館をさらに活用してほしいですね。

現場所長
前山 知範

平成元年4月 兼六建設㈱入社

【資格】
1級建築士
1級建築施工管理技士
2級土木施工管理技士

【主な現場】
小松(14)車両器材庫他新設他建築工事、総合養護学校建設工事(知的障害棟・建築 その他)、西荒屋小学校耐震補強・大規模改修工事、松任中学校第二体育館建設工事(建築工事)、(仮称)慈妙院動橋新築工事、(仮称)ケーズデンキ高岡店新築工事、(仮称)美郷保育園新築工事、ダイワ通信株式会社新社屋建設工事、金沢市立戸板小学校屋内運動場改築工事(建築工事)

共通認識を持つことで効率的な工程管理を行う

これまで担当した中でも、ふれあい館は大規模の物件でした。私は工程管理を担当しましたが、全員が共通認識を持てるような進行を心掛けました。自分の意見を伝え、相手の意見もしっかり聞く。意見を交わすことは時間がかかりますが、結果的に効率よく進められたと感じています。
施工で最も気を使ったのは、立体駐車場のコンクリート打ち放しの仕上げです。上から他の材料を貼らないコンクリート打ち放しは、継ぎ目の美しさなど高い技術力が必要です。後から補修ができないので、集中して施工を行いました。大型物件のため、当初は不安もありましたが、助け合うことで無事に竣工の日を迎えられたことをうれしく思います。

建築部
水野 翔太

平成26年4月 兼六建設㈱入社

【資格】
1級建築施工管理技士

【主な現場】
金沢桜丘高等学校改築工事(図書メディア棟・建築)、㈱ほくつう本社社屋建設工事、ケアハウスキラッと白山増築工事、エスフーズ株式会社北陸営業所新築工事、金沢城公園整備(鶴の丸休憩施設)工事(建築)、㈱ヤスジマ社屋及び工場新築工事、(仮称)DCMカーマ魚津店新築工事、日本ゼオン㈱高岡工場受電所耐震補強工事、タイガー小松店改修工事、野村金属工業㈱社屋増築工事、津幡町住吉公園温水プール建設工事(建築)

重機の配置や搬出入など市街地ならではの苦労を体験

敷地いっぱいに経つ建物だったので、敷地内に重機を配置できない時は道路を挟んでの作業になり、周囲に気を配りながら進めました。現場に面した大通りは渋滞する時間帯もあり、重機の搬出入に苦労する場面も多々ありましたね。立体駐車場の施工は初めての経験で、図面から内部構造をイメージするのに時間がかかりましたが、階段状になった躯体が少しずつ形になっていくと、やりがいを感じました。周りから、「工事をしていた新しい駐車場、いいですね」と言われると苦労したかいがあったなと思います。完成した建物は正面にルーバーがデザインされ、かっこよく仕上がっているので、ぜひ多くの人に見てもらいたいです。

建築部
小林 克幸

平成28年4月 兼六建設㈱入社

【主な現場】
朱鷺の苑かがやき建設工事、ケアハウス朱鷺の苑かがやき建設工事、(仮称)レーベン金沢大手町新築工事、七塚小学校長寿命化改修工事(建築)、エネルギー回収型廃棄物処理施設建設工事

入社後、初めての現場で施工の一通りを学びました

ふれあい館は入社して初めての現場でした。記録資料となる現場写真の撮影を任され、自分なりに工夫しながら行いました。新人だったので、わからないことばかりでしたが、解体から竣工まですべての工程に関われたことはいい経験になりました。印象的だったのは、先輩たちのコミュニケーションの取り方です。職人さんに指示を出す際、丁寧に、なおかつ馴れ合いにならないよう工夫することで、職場の雰囲気が良くなり、クォリティも保たれる。この現場で学んだコミュニケーション力は今に生かされています。完成後、無事に足場がとれた時は感動しました。お客様に「いい建物ができた」と言ってもらったことが心に残っています。

建築部
田畑 祐斗

平成30年4月 兼六建設㈱入社

【主な現場】
アール・ビー・コントロールズ本社増築工事
金沢美術工芸大学建設工事(建築工事その1)

工期厳守のDNAを受け継いでほしい

定年退職後、参与という立場で若手の育成をしています。現場では助言をしつつ、人手が足りない時は手を貸しています。あくまでサポート役に徹し、若手が自分で考えて動く自立心を育てるようにしています。ふれあい館の現場では、段取り不足の面があったので、先を読んで動く大切さを伝えました。段取り八分という言葉がありますが、まずは図面をチェックし、工事の段取りを先読みして必要な部材を手配する。それがスムーズな進行のコツです。兼六建設のDNAがあるとすれば、「工期厳守の精神」だと思います。若手をはじめ、現役で働く皆さんにもそのDNAを受け継いでもらい、お客様に喜ばれる会社であり続けてほしいです。

建築部
桑本 一夫

昭和47年4月 兼六建設㈱入社

【資格】
1級建築士
1級建築施工管理技士

【主な現場】
(ラ・ラ・ラ)タイガー長田店新築工事、新いしかわ動物園整備工事(建築工事その2)、ケアハウス加賀中央ヴィラ松が丘増築工事、篤豊会職員宿舎新築工事、小松(11)隊舎改修建築他工事、(仮称)クオス上作延新築工事

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